田舎暮らし in 熊野

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なぜサンマは安くて美味しいのか

脂ののったサンマの塩焼きや、旨味が凝縮されたサンマの丸干しなど、サンマはとても美味しいですよね。しかも値段も安い!では、なぜサンマは安くて美味しいのでしょうか。言うまでもなく、供給が需要を大きく上回っているからです。サンマは唯一国産100%、しかも天然100%の魚です。つまり、非常に水揚げ量が多い魚です。外国からの輸入や養殖に頼る必要がないのです。美味しい魚ですので、サンマを買いたいという需要も大きいですが、それ以上の水揚げ量があるためサンマは安くて美味しいのです。

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今まで当たり前のことを述べてきました。水産業者の立場に立ったとして値段を上げるためにはどういう策があるでしょうか。需要を増やす努力をするか、供給を減らすかですよね。需要を増やす努力はすでにしています。サンマはDHAなど健康にいい栄養素を多く含んでいるので沢山食べましょうといったPRであたり、缶詰など日持ちのする加工品を製造販売したり等です。そもそもサンマの場合は大衆魚なので、既に多くの人々が食しており、爆発的な需要の増大は望めないです。

では供給を減らすことはできないのでしょうか。これが非常に難しいのです。ここに漁業の抱える大きな問題の根源があります。漁業というのは、原則的に海という私的所有権の存在しない場所で生産活動が行われています。つまり、一漁業者や一事業者で漁獲量をコントロールすることが出来ないのです。自分が獲らなければ、他に獲られてしまう、となってしまい、結果的に乱獲が進んでしまうという構造になっています。経済学では「コモンズの悲劇」として知られている概念です。乱獲が進むのは目先のことしか考えない漁師のせいだ、という言説が世間に流布していますが、そんな簡単な話ではないのです。ある漁師が長期的視野に立ち、資源保護のため小さな魚は逃してあげたり、漁に出る回数を減らしたとします。別の漁師がその分を獲ってしまったらどうなるのでしょう。資源保護に励む漁師の生活が成り立たなくなりますよね。漁師の方々も、頭では小さな魚は逃して、成長して高値がつくまで漁獲を控えた方がいいことは分かっています。ただ、他に獲られるくらいなら...となってしまうのです。

 

個々の漁師でコントロール出来ないのであれば国がルールを作って漁獲規制を行えばいいのではないかと思われる方も多いと思います。実際に、サンマでも規制が敷かれています。しかし、これで解決とはなりません。魚は世界中の海を移動します。長期的な資源育成の観点から、ある国が自国の領海内で漁獲規制を敷いたとします。隣の国には規制がなかったとしたら、隣の漁船は取り放題となり、結果的に規制を敷いた国が損をすることになります。では各国が協調して国際的なルールを作ればいいのではないかと思われる方も多いと思います。これは至難の業です。国家は国内においては一度決まった法規制に国民を強制的に従わせることができます。しかし、国際政治では違います。国際法なるものは国内法が持っているような強制力を持っていません。領土問題を見たらよく分かりますよね。国際裁判所で問題解決することは稀です。つまり。片方が国際裁判自体を認めないと言ったら終わりということです。国際政治は本質的に無秩序構造の下にあります。

 

このように、安くて美味しいサンマが出回っている背景には、漁業特有の供給をめぐる非常に難しい問題が潜んでいます。漁業は共有地で行われるという性格上、供給調整が難しい。さらに、世界中の海を移動する魚という生物の性質上、国内規制だけで対処することも難しい。そのために、過剰漁獲になる傾向があり、値段が下がるということです。乱獲が進めばやがてサンマの資源量は減少します。いずれサンマは安くて美味しい魚から、高くて美味しい魚になってゆくのでしょう。