田舎暮らし in 熊野

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養殖は環境に優しい、は本当か?

昨年末に奮発して青森産の天然本マグロの大トロを食べました。いわゆる最高級品です。微かに酸味があって、しつこくない脂の乗りで確かに美味しかったです。天然本マグロを食べるのは久しぶりでした。今、日本で出回っている本マグロは養殖物が多いですよね。

 

本マグロに限らず日本における天然魚の漁獲量は年々減少しています。ピーク時の約3分の1になっています。サンマ、スルメイカなどの大衆魚も激減しています。減少傾向の天然魚を保護するためにはこれからは養殖だ!養殖が地球を救う!というようなことがよく言われていますよね。これは本当なのでしょうか。本当の部分もあればそうではない部分もあると思います。要するに単純な話ではないということです。現在、地方で漁業に従事している自らの経験を踏まえて、養殖を含めた漁業の実態について書いていきます。

 

まずは養殖が環境に与えるプラスの影響について述べます。養殖魚の利用が増えれば、一般的には天然魚の漁獲は減るので環境に優しい側面があります。天然魚の漁業は常に乱獲に向かう傾向があります。なぜかと言うと、海には基本的に私的所有権がないからです。獲った者勝ちの世界なのです。自分の所有地であれば、保護管理するインセンティブが生まれますが、共有地だとそうはいきません。経済学で「コモンズの悲劇」と呼ばれている問題です。昨年、漁業法が改正、資源保護の強化等が法制化されました。簡単に言うと、漁獲規制の強化です。施行は今年の末ですので、今は準備期間です。現場にいる実感では、漁業法改正前後で漁業者の意識が大きく変わったとは思いません。様子見状態です。改正漁業法を読んでみますと、漁獲枠の割当方法など曖昧な記載が多く、実効性のある資源保護策が本当に実施されるのか疑問です。

 

次に養殖が環境に与えるマイナスの影響について述べます。1つ目は養殖魚のエサの問題です。養殖魚のエサの大半はサバ、イワシなどの天然魚です。つまり、養殖魚の飼育には多くの天然魚が使用されており、養殖は天然魚の乱獲の一因になっているということです。2つ目は「種の改変」に伴うリスクの増大です。私はこれは今後大きな問題になってくると思っています。具体的には新たな病原菌の発生や、養殖魚から天然魚への病気感染などです。まず述べておきますと、天然魚と養殖魚はほとんど別種と考えてよいかと思います。野菜や食肉に比べてほとんど知られていないですが、養殖魚の多くにはホルモン剤(成長促進剤)やワクチン(抗病原菌剤)が与えられています。最近ではゲノム編集、遺伝子組み換えされた魚もいます。このようにほぼ別種の養殖魚と天然魚が海の中で接触することで、養殖魚から天然魚に病原菌が感染する事例やハイブリッド化による種の退化現象などが報告されています。ノルウェーは養殖サーモンが非常に盛んな国ですね。フランスの新聞、ル・モンドの記事によるとノルウェーでは養殖サーモンの増加で天然サーモンが増えるどころか減っているそうです。養殖サーモンから天然サーモンに病原菌が感染していることなどが一因と考えられているようです。養殖サーモンはワクチン付与によって病原菌に対する抗体があっても、天然サーモンにはないことなどが原因のようです。

 

いかがでしたでしょうか。養殖には良い部分もあり、悪い部分もあるという話でした。養殖が地球を救う万能薬とはなり得ないのです。養殖の大きな問題点として「種の改変」に伴うリスクについて特に詳しく述べました。今回は述べませんでしたが、人間が「種」を操作することが果たして許されるのかという生命倫理に関わる大きな問題もあります。魚の養殖だけに関わらず、人間が作り出したあらゆる「技術」には光と影の部分があるということを忘れずにいたいものです。