田舎暮らし in 熊野

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カルロス・ゴーン盛衰記 〜野心家の栄光と悲惨〜

東京拘置所の三畳程の独居房でカルロス・ゴーンは無機質な壁を見つめながら何を想っていたのでしょうか。そして楽器箱の中で。

 

世界的な自動車グループを築き上げた、ビジネス界の栄えある超エリートだったカルロス・ゴーン。南仏にクルーザーを所有し、優雅なバカンスを楽しみ、ヴェルサイユ宮殿で豪華な結婚式を行いました。ビジネス界の超エリートが集うダボス会議に毎回のように参加し、雄弁に世界経済、ビジネスについて語っていましたね。日本国からは外国人ビジネスパーソンとしては初めてとなる藍綬褒章を授与されました。

 

一転、所得隠しの容疑で逮捕され、拘置所に入れられてしまいました。その後、保釈中に日本の法律を破ってレバノンに逃亡したことは周知の事実ですね。細かい事件の経過については、報道で広く知られていますので省きます。今回はなぜカルロス・ゴーンは栄光の座から滑り落ち、無残な逃亡者へと化してしまったかについて考えてみます。

 

一言で述べると、カルロス・ゴーンは周り(主に日産経営陣)から憎まれ過ぎていたということでしょう。強権的手法、高過ぎる報酬、傲慢、飽くことなき強欲などから。ゴーンの後継者候補の社員は次々と会社を去りました。アメリカのビジネス雑誌、ブルームバーグ・ビジネスウィークの記事によると、ゴーンはこう公言してはばからなかったそうです。

「私はこの惑星で最も高い報酬を受け取る価値のある人間だ」

結果的には、自らの忠実な部下であるはずだった西川前日産CEOらに反旗を翻され、検察に所得隠しをリークされ、逮捕後起訴されました。ゴーンは裸の王様だったのでしょう。

 

ゴーンだけが悪かったのでしょうか。そうは思いません。日産社内でゴーンの不正をつかんでいたのであれば、いきなり検察にリークするのではなく、社内で役員会を開き、正式な社内手続きを経た上で解任後に刑事告訴すべきだったと思います。絶対権力者のゴーンが恐かったから、お上に泣きついたというのが実態でしょう。個人的にこれは卑怯なやり方だと思います。

 

日産にも問題があった思いますが、ゴーン凋落の一番の原因は、やはりゴーン自身の傲慢さによって周りから憎まれ過ぎてしまったことにあるのでしょう。裸の王様になり、周りからの冷たい空気を感じ取れなくなっていたのだと思います。ゴーンほどの優秀な人物であったとしても。

 

ゴーン凋落は、人の上に立つ人々への警鐘になると思います。マキャベリは『君主論』の中でこのようなことを述べています。

「リーダーは部下から愛されるよりも、恐れられる必要がある。しかし、憎まれてはならない」

リーダーは憎まれてしまえば、部下から反逆や反乱を受けてしまい、身を滅ぼす結果を招きかねません。リーダーは部下から恐れられはしても憎まれないよう、絶えず気をつけるべきなのでしょう。裸の王様にならないように。

 

"Being afraid of failure usually provokes failure."

「失敗を恐れることは、往々にしてさらなる失敗を引き起こす」

10年以上前にCNNのインタビューでゴーンがこのように自らの信念を述べていました。なぜかこの発言をよく覚えています。ゴーンは確かに失敗を恐れずに様々な改革を成し遂げて、ビジネスの世界で大成功しました。しかし、皮肉なことに部下の反逆という「失敗」を恐れることがなかったがゆえに、裸の王様になっていることに気づかず、最終的には悲惨な末路をたどることになりました。

 

ゴーンが日本の法廷に立つことはないでしょう。レバノンから出ることもないでしょう。徐々に忘れ去られていくことでしょう。さようなら、カルロス・ゴーンさん。