少子化社会、実は意図的に作り出されていた
なぜ日本は少子化、人口減少に陥ったのでしょうか。所得が少ないため結婚出来ない人が増えている、働きながら子育てする環境が整っていない、はたまた女性が社会進出によって経済的に自立するようになり、未婚化が進んだため等が言われていますね。一概には言えませんが、私は最後の説が妥当かなと思っています。フランスの人口学者、エマニュエル・トッドも同様の見解を示しています。識字率の向上、女性の社会進出等社会の成熟化の必然的帰結として少子化が進むと。河合雅司氏の『日本の少子化 百年の迷走』を読みました。著者は現在の少子化社会は過去の政策によって意図的に作り出された側面があると論じています。興味深い説でしたので紹介します。
日本の過去100年の人口政策を見ると、紆余曲折を経てきました。明治から昭和初期にかけては人口爆発が起こり、人口過剰に危機感がもたれていました。資源の少ない、且つ狭い国土で多くの国民を養うことはできないとの論です。人口を減らすために、海外への積極的な移民政策がとられ、ハワイ、南米、満州などの地に多くの日本人が移民として渡りました。日米戦が近づくにつれて、逆に人口増強策が国策として進められるようになりました。そして戦後、旧植民地からの引き揚げ、出征していた夫の帰国がもたらしたベビーブームにより、1945年から1950年の間に人口は1000万人以上も増加しました。急激な人口増加は戦後の困窮に拍車をかけました。今度は人口抑制策がとられるようになりました。著者は戦後に取られた人口抑制策が、現在の少子化、人口減少の淵源になっているのではないかと述べています。
戦後に取られた人口抑制策の陰には、連合国軍最高司令官総司令部(GHQ)の意向が働いていたとの指摘も興味深いです。GHQがなぜそのような意向を持っていたのか。日本は過剰な人口を国内資源だけで養うことができずになり、資源獲得のために対外的軍事進出を行ったとの認識をGHQは持っていました。再度日本に戦争を起こさせないために人口を抑制する必要があると考えたようです。さすがのGHQも国家や民族の衰退に直結する人口抑制策を表立って進めることはできず、間接的な方法で進めたようです。日本政府側の必死の抵抗もありました。根拠のない陰謀論ではなく、本書では具体的な論拠をあげて「敗戦後も続いていた日米戦争」の様子を描いています。
私は現在の日本の少子化、人口減少の主な要因は今でも社会の成熟化による必然的帰結だと思っています。ただ、政策によって意図的に作り出されたという側面も大きいのだなと本書を読んで思いました。そして戦後の人口抑制策の陰には、GHQによる日本封じという人口戦があったことも。これは、現在の少子化、人口減少はすべてGHQのせいだと責めているわけではないです。戦後の困窮期に、増え過ぎた人口を養いきれないという国内問題も大きかったでしょう。社会保障制度の整備やライフスタイルの変化も少子化の要因になったでしょう。占領軍であるGHQの意向があったとしても、最終的に選択したのは日本人であり、日本の問題です。
現在、政府が進める地方創生の本質は、少子化、人口減少対策だと思っています。つまりは、かつての日本が意図的、政策的に人口の減少、または増加を作り出そうとした取り組みが繰り返されているわけです。このことの是非を問うているわけではありません。人口問題という国家の趨勢に関わる重大事を放置はできないということでしょう。
現在の東京を中心とする都市の発展は、出生率の高い、地方の人口を吸収する形で進んでいます。統計で明らかなように、都市圏は地方に比べると出生率が低いです。つまり都市は内在的に発展しているわけではないのです。地方が衰退すれば、やがて都市の発展も行き詰まります。地方創生に関わる身として、日本の人口問題について引き続き考えていきます。