田舎暮らし in 熊野

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滅びゆく田舎と美

滅びゆく田舎は美しい。

 

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誤解を恐れずに私はそう言いたいと思います。

 

世間一般では人口減少に伴う地方の衰退は、深刻な問題であり、新たな産業創出して都会からの移住者を集める等の地方創生策を進める必要があると言われています。政治経済的な観点から見るとその通りだと思います。視点を変えて、文学的感性で捉えると滅びゆく田舎は美しい物語の源泉であります。

 

私の住む漁村は沿岸漁業が主要産業の人口300人程のいわゆる限界集落です。地域に住む老人の方々からいろいろな話を伺う機会があります。

かつては数十隻のサンマ漁船が、船が傾く程の大量のサンマを港に水揚げする風景が多々見られたようです。村の各家庭で自家製のサンマの丸干を干す風景は壮観だったとのことです。資源の減少や漁業者の減少でここ数年はほとんどサンマが水揚げされていません。哀しそうに語る村の老人の表情が印象的でした。

村の小学校は6年ほど前に134年の歴史に幕を下ろしました。かつては子供たちの歓声に満ちていた小学校、今は寂しそうな鳥の鳴き声が辺りを領しています。

私はこれらの話を聴いて悲惨な印象や陰鬱な気分に沈むことはなく、哀しくも美しい話と感じました。

 

滅びゆくものに対する哀愁の念、滅びの美は日本文学の底流に流れているものなのではないでしょうか。散りゆく桜花に我が身を重ね合わせて詠まれたいにしえの和歌の数々、この世の栄華を極めた平家の滅亡を描いた『平家物語』、現代文学ですと、滅びゆく戦前、関西の上流文化の崩壊過程を描いた谷崎潤一郎の『細雪』など例には事欠きません。

映画ですと、ある家族の離散過程を描いた小津安二郎監督の『東京物語』や河瀬直美監督の『萌の朱雀』などがありますね。

 

人や共同体は否応もなくいずれ滅びてゆきます。

地方の衰退をくい止めるために、政治経済的な観点から新たな産業創出などの対策を打つことは当然必要ですが、同時に滅びゆくものの物語を後世に伝えてゆくことで、人々の記憶の中に生き続ける、そんな形の地域おこしも必要なのではないかとふと思いました。