田舎暮らし in 熊野

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熊野のサンマ漁 今昔物語

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去年のサンマ漁は、前年に比べて好調でスーパーなどでも一匹100円程度とお買い得でした。スーパーなどで売られているサンマは北海道や三陸産が多いですよね。実はここ熊野でもサンマ漁が盛んです。南下してきたサンマが11月から3月いっぱいくらいまで揚がります。熊野のサンマ漁の拠点は遊木港で、三重県随一の水揚げを誇ります。紀伊半島南部においてもサンマ漁の一大拠点です。ここ遊木港で揚がるサンマには主に二つの特徴があります。一つ目は脂が少ないこと、南下してきたサンマは、このあたりに回遊して来る頃には脂が落ちています。脂が少ないと塩や酢の浸透が良いため、干物や寿司に最適です。熊野のサンマの丸干、サンマ寿司は当地の名産物です。二つ目ははらわたが綺麗なこと。サンマは昼間食べた餌が夜中まで残っています。遊木港から出る船は夜中に出漁するため、漁獲時のサンマは消化を済ませていることが多く、はらわたが綺麗です。はらわたが綺麗ということは、鮮度を保ちやすく、質の高いサンマを意味します。

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熊野の主要漁業であるサンマ漁が、実は今、危機に瀕しています。ここ数年サンマがほとんど揚がっていません。昨年は1.3トン、その前年、前々年はほとんとゼロでした。最盛期には年間数千トンの水揚げがあり、サンマ漁船も30隻近くありましたが、今は10隻を大きく割り込んでいます。黒潮の蛇行による影響、外国船による乱獲などが原因と言われていますが、自然現象ですので確証はありません。

主要漁業が壊滅状態で漁師の方は苦境に置かれています。熊野産サンマの丸干やサンマ寿司が目玉商品であった加工業者も厳しい状況です。今季もまだサンマの水揚げがありません。北の方で比較的豊漁だったとのことで回遊を期待しているのですが、本格的な回遊はまだのようです。

 

日本のような先進国の消費地には食料があふれています。しかも、工業製品のように規格化された食品がです。頭付きの丸魚が出回ることはほとんどなく、切り身などに加工されてきれいに包装されています。食べ物は言うまでもなく、生物の命を奪うことで成立します。漁師は命がけで魚を獲りに行きます。魚屋さんやスーパーの人がきれいに加工して初めて消費者の元に届きます。消費者の方々の食卓に並ぶまでに壮絶といってもいい生命をめぐる物語があります。消費者の皆様には食べ物をめぐる壮絶な物語に想いを馳せて頂ければと思います。生産者側もそれらの物語を語る努力をするべきだと思っています。

食料は車やスマホと違い、なければ死に直結する最重要産業だと思っています。日本になければ輸入すればいいという考え方もあるでしょう。その考え方は平時が続くという前提に支えられています。現在の輸入元と交戦状態になったり、先方の国で食料不足が発生したらどうなるでしょう。輸出するはずがありません。食料を自給する体制を整えておくことは、安全保障上の観点から非常に重要です。自由貿易は目的ではありません。豊かな社会を築くための手段であるべきです。豊かな社会とは、危機的事態にも耐え得る強靭さを持った社会でもあります。そのためには、最重要産業である食料は、できるだけ自国で自給できる体制を整えておく必要があります。生産者は安定した食料供給に知恵を絞り、消費者の方々は多少高くても、自国の食品産業を守るためにできるだけ国産の食料を買って頂きたいと思っています。