田舎暮らし in 熊野

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懐かしのチューペットは何処に

私は小さい頃、チューペットが大好物であった。

チューペットとは、アイスの一種である。細長い形状をしており、凍らせると真ん中でポキッと折ることができ、二つになる。砂糖水に色をつけて凍らした程度の簡素なアイスであり、高級品でもなければ、グルメを唸らす逸品でもない。でも、私はこのチューペットが好きで、しょっちゅう食べていたものだ。

 

先日、あるエッセイを読んでいたら、筆者が小さい頃に苦手だった食べ物について書かれていた。たくあんが大の苦手だったとのことである。戦中、戦後の貧しい時代だったこともあり、苦手な食べ物でも残すことは親に許されなかったようである。このエッセイを読み、自分の小さい頃に苦手だった食べ物について思い出そうとしたところ、なかなか思い浮かばない。私は小さい頃から、食べ物の好き嫌いはほとんどない。強いて言うなら、牛乳や生トマトはあまり得意ではなかったが、大嫌いとも言えない。出されたら食べるし、飲む。そんなわけで、小さい頃に苦手だった食べ物ではなく、好きだった食べ物について回想してみた。すると、チューペットの記憶が蘇ってきたのである。

 

なぜチューペットがそんなにも好きだったのだろうか。三つ程理由が考えられる。一つ目は味である。私は小さい頃から、甘い物はあまり食べない。アイスクリームのような甘ったるいお菓子より、チューペットのようなさっぱりした氷菓子を好んだのかもしれない。二つ目は、共食の体験である。チューペットは一つを二つに割ることができ、誰かと共に食べることができる。それが楽しかったのかもしれない。三つ目は、音である。カチカチに凍らしたチューペットを思いっきり膝に叩きつけると、ポキッという小気味のよい音を立てて、折れる。その音が好きだったのかもしれない。

 

最後にチューペットを食べたのはいつだったのだろうか。思い出せない。おそらく小学生の時が最後だろう。ということは30年くらい前である。そして、私はチューペットのことを30年近く、思い出しもしなかったのである。チューペットに対して、申し訳ない気がしないでもない。こんなふうにして、大好きだったもの、こと、そして人々についても、時間の経過とともに忘れ去ってゆくのだろうか。そう思うと、どこか寂しい気になる。

 

まだチューペットは売っているのだろうか。久しぶりに食べてみたい、探してみよう。