田舎暮らし in 熊野

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三極化する田舎移住者 〜自給自足、起業、スローライフ〜

田舎移住者というと、自然愛好者、親密な人間関係を求める人々等々を思い浮かべる方が多いと思います。実は、田舎移住者にはこれらのステレオタイプに収まり切らない多様性があります。私は東京、名古屋で15年暮らした後に田舎に移住しました。人口は300人程の小さな漁村に住んでおります。都会から田舎に移住した人々に接する機会が多くあります。自らの経験を基に、多様化する田舎移住者の実状について書いてみます。

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都会から田舎に移住した人々は、大きく分けて3つのタイプに分けることができると思います。一つ目は自給自足志向、二つ目は起業志向、三つ目はスローライフ志向です。順に説明します。

 

一つ目の自給自足志向の人々には、芸術家、思想家タイプが多いように思います。分業化、専門化が高度に進み、全体性を喪失した都市生活者のあり方に疑問を感じ、田舎で自給自足的生活を目指す人々です。田舎は都会に比べると圧倒的に物質的に不便です。食料生産から機械や家の修理等々を自分で行う人が多いです。都会であれば、お金を払って、専門業者に依頼することが圧倒的に多いでしょう。田舎ではそうはいきません。田舎は都会に比べて、全体性を持って生きる必要があります。自給自足志向の田舎移住者は、ここに魅力を感じるのでしょう。和歌山県那智勝浦町に色川村という集落があります。移住者がとても多い所で、住民の半分以上を移住者が占めています。先日、大阪から色川村に移住して農業を営む方と話す機会がありました。移住者の大半は自給自足志向だとのことです。少し驚きでした。

 

二つ目の起業志向の人々についてです。起業であれば都会が圧倒的に有利だと考える方が多いでしょう。実は、田舎は起業の穴場です。インターネットの発達等によって田舎から都市向けのビジネスが容易になりました。物販であればネット通販、ITビジネスであれば、そもそもインターネットが繋がるパソコンさえあればどこでも仕事ができます。田舎には眠っている資源が沢山あります。例えば、私の従事している漁業ですと、未利用魚、低利用魚があります。味は良いにも関わらず、小さ過ぎて加工の手間がかかる、鮮度落ちが早い等の理由で捨てられてしまう魚や二足三文の値段しかつかない魚です。調理法、流通法を工夫したらば、ヒット商品になる可能性は大いにあります。既存の田舎住民のほとんどは、未利用魚、低利用魚には価値がないと思い込んでいます。都市から田舎に移住した人々は、思い込みがないので、眠っている資源を見つけやすいのです。実感としては、田舎発ビジネスを起こすのは、既存の住民より移住者の方がはるかに多いです。

 

三つ目のスローライフ志向については、イメージしやすいかと思います。都会の喧騒を離れて、田舎でのんびり暮らしたいという人々です。ここに当てはまるのは、ある程度の貯金に加えて年金収入があり、老後を田舎でのんびり暮らしたいという人々や、二重生活者です。二重生活者とは、平日は都会で仕事をしながら生活し、休日は田舎暮らしをする人々です。現在、政府が進める地方創生政策は、二重生活者の拡大に主眼をおいています。

 

田舎移住者というと一括りに考えられがちですが、実は様々なタイプがいます。今回は三極化する田舎移住者について詳しく書いてみました。田舎移住者の三極化現象については、社会全体にも当てはまるのではないでしょうか。自給自足志向は、ラディカルな社会変革志向に対応しているように思えます。原始共同体に回帰しようという運動などです。例としては、戦前日本の農本主義や、中国の文化大革命時に行われた下放政策、アメリカのヒッピーなどです。起業志向については、いわゆる上昇志向の強い人々です。立身出世主義者とも言えます。スローライフ志向については、上昇志向はあまりなく、地元でのんびり暮らしたいという人々です。

 

私はこの三極化現象について、どれが優れていてどれが劣っているというようなランク付けをしてはならないと思っています。人によって人生観は異なっていて当然です。おのおのが求める生活を送ることが出来て、それを周りの人々が認め合える社会であって欲しいと思っています。