田舎暮らし in 熊野

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人はなぜ第一印象に惑わされてしまうのか。

「人を見かけで判断してはいけない」

という、ある種の道徳律がありますよね。これを逆説的に解釈すると、人間は見かけで人を判断する傾向があるという意味になるかと思います。少し前に『人は見た目が9割』という本が流行りましたね。日常生活においても、容姿(特に顔)が端麗な人は、そうではない人に比べて社会的成功を収める可能性が高いことは実感できますよね。では、人はなぜ見かけで人を判断してしまいがちなのでしょうか。プリンストン大学の心理学部教授、アレクサンダー・トドロフ著『第一印象の科学 なぜヒトは顔に惑わされてしまうのか?』を通して人が顔に惑わされる理由と、出来るだけ正確に人間を判断する方法を考察します。

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まずは、人が顔に惑わされる理由を本文から引用します。

「人類の進化を24時間で表すと、見知らぬ者が集まる大きな社会でヒトが暮らした時間は、たった5分に満たないのだ。1日の最後の5分である。残りの時間、人類は小さな集団を作って暮らしていた。そこでは、性格を推論するために見かけの情報に頼る必要はなかった。つまり、見かけへの依存は、私たちの進化的歴史の最後の5分になってようやく出現したということだ。小規模な社会で簡単に得られていた他人に対する実質的な知識は、大規模社会ではみかけのステレオタイプに取って換わられた。他人のことを知りたいという希求と良好な情報がないという状況は、見かけの情報に頼ることを人々に強いた」

判断の時間、手間を省くために最も容易な情報である見かけに飛びついた、ということなのでしょう。なんとなく分かります。多くの人々と日々、接する中でいちいち個々の人間について綿密な調査はできないですものね。

 

では見かけによる判断は、正しいのでしょうか。そうではないようです。第一印象に対する現代のモデルは、見かけのステレオタイプを数学的に解明したものであり、現実を解明したものではないようです。具体的に述べると、例えば俳優の渡辺謙さんは、猛々しい武士みたいなイメージがありますよね。これはステレオタイプです。実際の渡辺謙さんは物静かなインテリかもしれません。(私は渡辺謙さんをよく知りませんのでこれも憶測です)ステレオタイプをどれだけ並びたてても、見かけによる判断が相手の性格を深く洞察していることにはならないですね。見かけの情報が全くあてにならないかというと、そうでもないようです。今そこにいる相手の感情や行動を知る手がかりにはなります。今、相手は怒っているな、喜んでいるな、といったことは、見かけからおおよそ判断できます。

 

では最後に、外見に出来るだけ惑わされずに人間を判断する方法を述べます。再度本文を引用します。

「フィードバックが曖昧な状況でよりよい推測を下すには、統計学者のように考える必要がある。つまり、不確実性の役割を評価し、観察対象のサンプルの規模が小さい場合は、必ず非常に不安定な結果をもたらすという事実を認識すべきなのだ」

例えば、仕事で初めて会った人がしかめっ面をしていたとします。悪印象を持ちますよね。ただ、彼が悪人かどうかは第一印象では分からないはずです。しかめっ面をしていたのは、その時の体調が悪かったからかもしれませんし、あるいは仕事以外では好人物かもしれません。第一印象という限られた情報で人間を判断することは、極めて難しいことを認め、相手を出来るだけ正確に把握するためには、多くの情報を集めなければいけないということですね。とはいっても、多くの人々と接する日常生活において、一人一人を綿密に調べることは不可能でしょう。第一印象で相手を判断することは難しい、そう知っておくだけでも、判断の失敗の確率は大分低下するでしょう。