田舎暮らし in 熊野

田舎暮らしの日常、旅行、グルメ、読書について書いています。

なぜ人間は失敗し続けるのか〜確証バイアスの光と影

戦争、環境破壊、バブルの発生と崩壊、デマや集団ヒステリーの流布、統治の失敗などなど、人間は懲りることなく失敗を続けてきました。賢いはずの人間は何故、失敗を続けてきたのでしょうか。「確証バイアス」が深く関係しているのかもしれません。

 

確証バイアスとは、何かを検証する際に、自らの信念に都合の良い証拠だけを集めてしまう思考回路です。例えば、嫌いな人がいるとします。すると、その相手の悪い部分しか見えなくなりがちですよね。逆も然りです。尊敬する人に対しては良い部分しか見えなくなりがちです。集団においても同じことが言えます。現在のアメリカの政治状況を例にとりますと、親トランプ派と反トランプ派はほぼ完全に反目しています。相手の良い部分や、自身の悪い点を冷静に見ることが出来なくなっています。日本における改憲派護憲派の対立も似たような状況に思えます。

 

イギリスのジャーナリスト兼ユーモア作家のトム・フィリップスは著書『とてつもない失敗の世界史』の中で、確証バイアスに起因する様々な失敗の世界史について書いています。

f:id:kumanonchu:20200222110916j:image

著者は戦史上の大失敗として、第二次世界大戦におけるナチスドイツによるソ連侵攻を上げています。現在のロシアにあたる土地に侵攻して成功した歴史的例はほとんどありません。大規模な侵攻がうまくいったのは、モンゴル帝国くらいです。ヨーロッパ大陸を制覇したナポレオンもロシア侵攻には大失敗しています。にも関わらず、ヒトラーは失敗の歴史から学ばず、なぜソ連侵攻を行ったのか。それは絶対勝てるはずだという信念に囚われ、都合の悪い情報を無視したからだと著者は述べています。つまりは確証バイアスです。当時のナチスドイツの中にはソ連侵攻に批判的な意見も多くあったようです。しかし、ヒトラーはそれらの意見を聞き入れず、傲慢さと希望的観測と現実逃避に基づいて行動し続けた結果、大敗北しました。

 

最近ベストセラーになっている『FACTFULLNESS』という本でも確証バイアスについて述べられています(日本語訳も出版されています)人間はquickthinkig brain(素早く考える脳)やdramatic instinct(ドラマ仕立てで考える本能)を持っていると。人間には物事を単純化する本能があるとのことでしょう。この本能は人間が事実に基づいて世界を認識する妨げになっていると著書は警鐘を鳴らしています。

f:id:kumanonchu:20200222122439j:image

ここまでは確証バイアスがもたらす影の部分を述べました。実は確証バイアスには光の部分もあります。人類は確証バイアスを持つことで生存可能性を上げてきたとも言えます。人類は圧倒的な長期間、生死の境とも言えるような厳しい環境を生きてきました。敵が味方か分からない相手に遭遇した際に、冷静に相手について分析している猶予はありません。瞬時に判断しなければ死に至る可能性が高まります。そして世界はあまりにも複雑で不透明です。すべての物事を複雑に考えることは、時間的にも脳力的にも不可能です。ある程度の思考の「型」を持つことは、人類が生存する上で必要不可欠だったのでしょう。

 

いかがでしたでしょうか。人間は確証バイアスによって自らに都合の悪い情報に目を背けることで、失敗を重ねてきたという話でした。と同時に人間は確証バイアスを持つことで判断スピードを上げ、生存可能性を高めてきたという話でした。つまりは確証バイアスには光と影があるのです。光の部分に関しては、本能に組み込まれているため意識する必要はほとんどないでしょう。影の部分に関しては、意識をして失敗を繰り返さないようにする必要があると思います。特定の思考パターンに陥って、知らないうちに自らに都合の良い情報だけを取り入れ、悪い情報を排除していないか、気をつけていきたいものです。具体的には、自分とは意見の異なる人の意見に意識的に耳を傾けることであったり、常に人間は間違い得るという可謬性の認識を持つことであったりするのでしょう。