田舎暮らし in 熊野

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ナチュラリストの思想〜瞬間瞬間に魅せられて〜

ナチュラリストとはどのような人なのでしょうか。一般的には自然愛好家と解されているかと思います。昆虫好き、ハイキング愛好家などなど。ではナチュラリストの思想の本質とは何でしょうか。生物学者福岡伸一氏の『ナチュラリスト 生命を愛でる人』という本を通して、ナチュラリストの思想の本質を探っていきます。福岡伸一氏は生物学者でバリバリ理系の人ですが、文学の世界にも造詣が深く、洗練された美しい文章をお書きになる方です。

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著者はナチュラリストの思想の本質をこう述べています。

「最初にあったもの。それはいったいなんでしょうか。それはおそらく美しさに打たれること、精妙さに驚くこと、フォルムの奇抜さに引き込まれること、動きのしなやかさに魅せられること、ぬくもりなかほっとすること、あるいは風の匂いや光の粒だちをはっきりと感じること。そういう一連のことごとです。自分が初めて自然の細部に触れたときのよろこび、それに対するフェアネスの気持ち、あるいは謙虚さのことです。それはひとことでいえば、「センス・オブ・ワンダー(the sense of wonder)」、ということができるでしょう」

 

自然、生命は常に変化しています。二度と訪れることのない一瞬一瞬を愛でる心ともいえるのかもしれません。私は田舎の魚市場で勤務しています。自然状況によって毎日魚の種類や量が変わりますので、センス・オブ・ワンダーを日々感じています。と同時に日常生活の中でセンス・オブ・ワンダーを失っている自分の存在にも気がつきます。決まった時間に起き、決まったことをする、思考を定型化する等々。人間は大人になるにつれて、否応もなくセンス・オブ・ワンダーを失っていくのでしょう。自然は本来、無秩序で混沌としたものです。本質的に無秩序な自然をなんとか秩序立て、定型化しようとする試み、それが学問、いや人生といえるのかもしれませんね。自己や社会を安定させるためには、秩序は必要でしょう。と同時に瞬間瞬間に新鮮な驚きを感じ、魅了されるセンス・オブ・ワンダーも忘れずにいたいものです。

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著者は別の著作、『動的平衡』の中でこう述べています。

「生体を構成している分子は、すべて高速で分解され、食物として摂取した分子と置き換えられている。身体のあらゆる組織や細胞の中身はこうして常に作り変えられ、更新されて続けているのである。だから私たちの身体は分子的な実体としては、数ヶ月前の自分とはまったく別物になっている。分子は環境からやってきて、一時、淀みとして私たちを作り出し、次の瞬間にはまた環境へと解き放たれていく」

 

この文章を読んで清々しい気持ちになりました。自然と同じように、分子レベルで考えると自分自身も刻一刻変化しているのだと。変わらない日常、マンネリズム、これらは思い込み、幻想に過ぎないということですね。自然、自分も含めた生命は常に変化しています。ここではないどこかや昔や未来だけではなく、瞬間瞬間に驚き、感動するセンス・オブ・ワンダーの源は今、ここにもあるということですね。

 

いかがでしたでしょうか。ナチュラリストの思想の本質は、自然が持つ一瞬一瞬の美しさ、精妙さに驚くセンス・オブ・ワンダーにあるという話でした。自然には人間の生命も含まれており、人間も分子レベルでは常に変化しており、センス・オブ・ワンダーの源は今、ここにもあるという話もしました。