昔の日本人はどのように酒を飲んでいたのか?〜酒の民俗学〜
若者のアルコール離れが進んでいますね。健康志向の高まり、遊びの多様化、人と人が集まる機会の減少などが原因だと言われています。私の実感としても、お酒を飲まない若者(20代)は確実に増えていると思います。お酒を体質的に飲めない人はさておき、飲める人でもあえて飲まない人は多いと思います。
では、昔の日本人(中世以前)はどのようにお酒を飲んでいたのでしょうか。日本民俗学の父、柳田國男氏の『酒の飲みようの変遷』という論考に、そのあたりのことが書かれていましたので紹介します。
まとめると4点あります。順に説明します。
①集まって飲む。
②飲む機会は限定されていた。
③一つの大きい盃で回し飲みする。
④徹底的に飲む。
①集まって飲む。
昔の日本人は、手酌で独りちびりちびりという飲み方ではなく、必ず集まって飲んでいたようです。共同の飲食をすることで、親交を深めていたようです。つまり、酒盛りは重要な社交の手段だったのです。酒は神に対する捧げ物でもありました。
②飲む機会は限定されていた。
昔の日本人は、毎日酒を飲むのではなく、一年のうちの限られた日だけ酒を飲んでいたようです。具体的にはハレの日です。正月、祭り、婚礼、旅立ち旅帰りの祝宴などです。
③一つの大きい盃で回し飲みする。
昔の日本人は、各々が小さい盃で酒を飲むのではなく、一つの大きい盃で回し飲みしていたようです。酒盛りという言葉のモルはモラフという語の自動形で、一つの器の酒を他人と共にするという意味ではないか、と柳田國男は述べています。
④徹底的に飲む。
昔の日本人は、酒の味を楽しむというよりも、酔うために飲んでいたようです。高揚感や陶酔感を一緒に飲んでいる人々が共有することが大切だったようです。酔ってどんちゃん騒ぎしていたようです。中世の記録には、飲み過ぎによる失敗談の類が沢山残っています。失敗とはいっても咎められることはなく、主人側の歓待が成功した証のようにも捉えられていたようです。
昔の日本人の酒の飲み方、現代に受け継がれている部分もありますし、そうではない部分もありますよね。大きな盃で回し飲みする、一年のうちの限られた、ハレの日だけ酒を飲むという習慣は失われたと言ってもよいでしょう。酒盛り、飲み会で大騒ぎする習慣は現代にも根強く残っているように思われます。私はそれなりに海外にも行きましたが、海外で日本の酒場の喧騒のようなものにお目にかかったことはありません。日本人は基本的に普段は静かで大人しいですが、大勢で酒を飲み始めると大騒ぎする傾向が強いと思います。今でも。
柳田國男は徹底的に酒を飲む昔からの習慣と、酒が手に入り易くなった現代の社会が結びつくと、日常的な酒の濫用という弊害が起こるのではないかと警鐘を鳴らしています。酒飲みの私としても耳が痛い指摘です。人と人が集まり、共同で飲食することで親睦を深める、そんな日本人の酒の飲み方の原点を忘れずにいたいものです。