田舎暮らし in 熊野

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トランプ現象を生み出した心理とは?

「トランプ支持は、選挙民の自分たちの社会的な存在を認めてほしいという切なる要望の表われだったのである。トランプに投票した人々は、自分たちのそうでありうる、あるいはそうあるべき姿でなく、ありのままの姿を愛してほしかったのだ」

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フランスの経済学者、ダニエル・コーエンの著書『ホモ・デジタリスの時代』の中の文章です。私はこの考察はかなり的を射ていると思います。アメリカのエリート層は、機会の平等や能力主義の理想をしばしば語ります。高等教育、高度医療などへのアクセスを平等化し、人種や性別などの生まれに関係なく、社会的に高い地位に就くことができる社会を築きましょうと。トランプを支持する大衆は、エリート層の語るこれらの理想を、大衆に対するエリート層の傲慢さの発露だと受け取ったのではないでしょうか。つまり、大衆が社会的に低い地位に甘んじているのは努力が足りないからであると叱責、非難されているように聞こえたのでしょう。

 

トランプ現象が起こっている背景として、アメリカ国内の経済格差問題や人口動態の変化などがよく取り上げられますね。人口動態の変化とは、アメリカにおいてヒスパニック系人口の増加などから、白人人口が多数派ではなくなりつつあるということです。自らが多数派ではなくなるのではないかとの恐れを抱いた白人が、反移民を掲げるトランプを支持したとの説です。アメリカには建国以来、反知性主義の伝統が脈々と受け継がれているという興味深い説もあります。つまり、堕落した既存のエリート層に対して、無垢で美しい大衆というある種の物語。アメリカでは宗教運動などにおいて、反知性主義が定期的に現れてくるようです。興味のある方は、リチャード・ホーフスタッター著『アメリカの反知性主義』や森本あんり著『反知性主義 アメリカが生んだ「熱病」の正体』をご参照ください。

 

トランプ現象を生み出した背景は複数あり、一概には言えないでしょう。経済問題、移民問題、人口動態、歴史文化等々。冒頭で引用した「自分たちのそうでありうる、あるいはそうあるべき姿でなく、ありのままの姿を愛してほしかったのだ」という個人心理も大きいと思えます。これらの要望が正当なものであるのかどうかは難しいところです。現状維持に甘んじているのではなく、理想を追い求める努力も必要です 。同時に、厳しい社会的現実の中で苦しんでいる人びとに対する温かいまなざしや気遣いも忘れずにいたいと思います。