デジタル掛け軸(D-K)と滅びの美
先日、熊野市にあります世界遺産、花の窟神社で開催されたデジタル掛け軸(D-K)のイベントに行ってきました。デジタル掛け軸とは、世界的な映像アーティストの長谷川章氏が創作したデジタルアートです。複数のプロジェクターで建物や壁などにデジタル映像を映し出します。固定した映像ではなく、色とりどりの幾何学模様がゆっくりと変化していきます。
デジタル掛け軸は東洋的な無常の精神を表現しているとのことです。移ろいゆく映像を見ているとなんともいえない気持ちに包まれました。例えると、散りゆく桜を見ている時の気持ちです。滅びゆくものに対する哀惜の念とでもいうのでしょうか。哀しくて美しい、滅びの美。
私は日本人の美意識の根底には「滅びの美」に対する共感があると思います。散りゆく桜を詠んだ和歌が沢山ありますね。古今和歌集の有名な歌を一つあげます。
花見れば こころさへにぞ うつりける いろにはいでじ 人もこそしれ
(散りゆく桜を見ていると 心も移ろってゆく 表情には出すまい 人に知られてしまうから)
平家物語に対する日本人の愛着も同じです。平家物語の基本的な筋書きは、平家は傲慢さ故に滅亡したといったものです。つまりは因果応報です。ただ、傲慢を戒める教訓話として平家物語を読む日本人は少ないと思われます。それよりは滅びゆく平家に心を寄せる人が多いのではないでしょうか。他にも日本人が愛する歴史的人物には志半ばで滅んでいった人物が多いですよね。ヤマトタケル、源義経、坂本龍馬、西郷隆盛などなど。
いかがでしたでしょうか。日本人の美意識の根底には「滅びの美」に対する共感があるのではないかという話でした。デジタル掛け軸はデジタル技術を駆使し、「滅びの美」を現代的に表現した芸術だといえるのでしょう。