田舎暮らし in 熊野

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大好きが大嫌いに変わる時、人は鬼になる。〜道成寺伝説を読んで〜

本日、和歌山県日高川町にある道成寺を訪れました。道成寺は能、歌舞伎、浄瑠璃といった古典芸能の演目となった「安珍清姫伝説」の舞台となった場所です。創建は701年と、長い歴史を有する名刹です。

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安珍清姫伝説」を紹介します。

奥州から熊野詣に向かう途中、一夜の宿を求めた修行僧の安珍清姫が一目惚れしました。再会を約束した二人でしたが、安珍は約束の日に姿を現しませんでした。安珍に裏切られたことを知った清姫は、怒り狂い、大蛇となって安珍を追います。安珍道成寺の鐘の中に逃げ込みましたが、大蛇となった清姫に、恨みの炎で鐘ごと焼かれて焼死しました。その後、清姫は自ら命を断ちました。

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安珍が焼死した鐘があったと伝わる場所です。

さて、かくも哀しくも恐ろしい「安珍清姫伝説」が後世まで語り継がれているのは何故でしょうか。我々は皆、どこかに「大蛇と化した清姫」を抱えているからではないでしょうか。清姫の姿に自らを重ね合わせるのです。清姫は冷酷無比な殺人者ではありません。深い愛情を持っていた人物です。深い愛情が裏切られた時、憎しみの鬼と化しました。我々も、愛情を抱いた相手に裏切られた時、受け入れられなかった時、憎しみの念を募らせることはないでしょうか。恋愛だけでなく、あらゆる人間関係においてです。「あんなに良くしてあげたのに、冷たい仕打ちをするなんてひどい奴だ」「恩を仇で返すとは許せない」等々。

 

人間は愛情を持つが故に、憎しみの感情も持たざるを得ない、そんな人間の業の深さを語った伝説だと思いました。私たちの中には、「愛情深い清姫」と「憎しみで大蛇と化した清姫」の2人の自分がいるのかもしれないですね。現在、道成寺は山奥ではなく、ありふれた田舎の住宅地の中にあります。何気ない日常に潜む深い闇を暗示しているように思えました。