田舎暮らし in 熊野

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人間はなぜ愚行を繰り返すのか 〜失敗の世界史〜

人間は進歩しているのでしょうか。科学技術の観点からは間違いなく進歩しています。現代、インターネットを通して世界中と瞬時にコミュニケーションをとることができます。月面着陸しました。医療の進歩によって平均寿命は大幅に伸びました。ただ、統治や政治の観点からは人間が進歩しているとは言えないと思います。

 

第一次世界大戦を描いた『八月の砲声』などの著作で有名なアメリカの歴史家、バーバラ・W・タックマンの著書『愚行の世界史 トロイアからベトナムまで』を通して、人間はなぜ愚行を繰り返すのかを考えてみます。

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タックマンは4つの歴史的事象を上げて、統治、政治的観点から繰り返される愚行の歴史を述べています。トロイアの木馬を城内に引き入れることで滅んだトロイアプロテスタントの離脱を招いた中世カトリック教皇庁の堕落、アメリカという金の卵の植民地を失った大英帝国の失政、ベトナム戦争に敗北したアメリカ。これらの愚行に共通する原因は何でしょうか。タックマンは誤謬への固執であると述べています。そして誤謬への固執を生むのは、指導者の権力欲であり、虚栄心にあると。

 

誤謬への固執について具体的に述べます。トロイアの指導者は、木馬を女神に奉納するという、敵のギリシャ人の言葉を信じて、木馬を城内に引き入れました。実際には、木馬の中にギリシャ兵が潜んでおり、ギリシャ兵は城内に入った後、門を開けて城外にいた多数のギリシャ兵を城内に引き入れました。その結果、トロイアギリシャに滅ぼされました。中世カトリック教皇庁の指導者は、自らの権力を過信し、免罪符の販売などで富の蓄積を計ったことなどからプロテスタントの離反を招きました。大英帝国は植民地のアメリカを子供のような存在だと過小評価し、結果的にアメリカ独立戦争が起こり、アメリカを失いました。アメリカは北ベトナムを独立の強い意志、能力もないアジアの「四流国」と見くびり、圧倒的な国力差があったにも関わらず、泥沼の戦争の末に敗北しました。

 

権力欲、虚栄心が誤謬への固執を生むのはなぜでしょうか。指導者が権力欲、虚栄心に囚われると、失敗を認めることが極めて難しくなるからです。個人心理的には、失敗を認めると自尊心が傷つきます。統治、政治的観点からは、失敗を認めると権力基盤が揺らぎます。ある意味で権力者の保身とも言えます。ベトナム戦争アメリカの五人の大統領の任期に渡って延々と続きました。負けを認めてしまえば、権力基盤が揺らぎかねず、引くに引けない状況に陥っていたのでしょう。

 

いかがでしたでしょうか。人間が愚行を繰り返すのは、権力欲や虚栄心が誤謬への固執を生むためだという話でした。人間は愚行の繰り返しに終止符を打つことはできるのでしょうか。おそらく不可能でしょう。人間の権力欲はあまりにも根深い欲求だからです。できるとしたら愚行の程度を下げることくらいでしょう。人間は不完全な存在であり、常に間違い得るという可謬性を謙虚に受け入れて、誤りに気が付いた時点で誤りを認め、引き返す勇気を持ちたいものです。