映画『萌の朱雀』の舞台を訪ねて
「恋しい人を 想ひながら 幾千年も前の 人たちも この山を見つめて いたのだろうか」
映画の舞台になった山の上の家の庭に河瀬直美監督の揮毫が彫られた石碑が佇んでいました。
『萌の朱雀』は奈良県西吉野の山深い過疎地を舞台に、徐々に離散していく家族の姿を描いた作品です。
河瀬直美監督のデビュー作であり、1997年にカンヌ国際映画祭で新人監督賞を受賞した作品です。尾野真千子さんのデビュー作でもあります。
筋立ては消して明るい話ではないのですが、悲惨さや陰鬱さは感じず、温かい気持ちにさせてくれる作品です。
個人的には現代日本映画の中で一番好きな作品です。
台詞が少ないため一見難解に見えるのですが、風景や音楽、登場人物の表情がそこはかとなく何かを語りかけてきます。
映画の中でみちると栄介が待ち合わせるバス停留所です。今やバスは廃線となり、朽ち果てています。
考三がみちると栄介を連れて行ったトンネルです。
鉄道が通るはずだった場所ですね。廃墟と化しています。
人や家族、共同体は否応もなくいずれ滅んでゆきます。しかし、どの様に生き、滅んでいったのかという物語は後世まで残っていくのだと思います。形あるものはいずれ亡くなってしまうとしても、物語を通して人々の記憶の中で生き続ける、そんな希望を感じる作品です。
「恋しい人を 想ひながら 幾千年も後の 人たちも この山を 見つめて いるのだろう」
そう想わせてくれる素敵な映画です。