田舎暮らし in 熊野

田舎暮らしの日常、旅行、グルメ、読書について書いています。

地方再生を阻む壁 〜保守と革新〜

都会から田舎に引っ越して、日々地域おこし活動に携わる中で感じる地方再生を阻む壁について書きます。何回かに分けて書いていきます。初回は田舎の保守性と都会の革新性についてです。

まず最初に保守とは何かを考えていきます。保守という言葉は現代においてどちらかというと否定的に捉えられているのではないでしょうか。保身、現状維持、守旧派、惰性、同調圧力等々。しかし、これは一面的な見方です。人間や組織は過去の経験や知識、知恵の蓄積によって発展してきました。伝統とは時の洗礼を受けて存続しているものである以上、なんらかの価値があるものです。古典文学が時代を超えて読み継がれてきたのは、そこに本質的な価値が含まれているからでしょう。

では伝統とは絶対的価値なのかというとそうではありません。常に状況は変化しており、変化に対応できなければ生物は滅びます。恐竜のように。伝統を守ることと、変化を受け入れて変革していくことは本来、対立的な関係ではなく、相互補完的な関係にあると思います。エドマンド・バークは「reform to conserve」が大切だと述べています。大切な何かを守るために漸進的に改革をしていくことが重要であると。

さて、田舎の保守性の話をします。田舎は都会に比べると保守的だと言われています。これは事実です。人の出入りが少なく、高齢者が多いため現状維持に傾きがちです。同時に地域が衰退していくことに対する危機感も持っています。現状維持では立ちいかないことを認識しつつも、よそ者が入ってきてコミュニティを壊されるのではないかという警戒心も持っています。田舎住民側の課題として、漠然とした危機感と警戒心に引き裂かれた状況を脱して、住民自身が具体的に何を守って何を変えていくべきなのかを考えて、行動を起こす必要があるように思います。行政や外部から来た人々にはそれを手助けする役割があります。

都会側の課題としては、田舎は遅れており、進んだ都会の視点で田舎を啓蒙する、というような考えをやめて、都会とは違う田舎の良いところを発掘して田舎の人に根気よく伝えていくことです。私自身、都会から田舎に移住して地域の方々と話す中で、田舎の方々は自ら住む地域の美点を認識していないことが多いと感じます。「なんでこんなところに来たの?」という質問を何度されたかしれません。もう一点は田舎を必要以上に美化しないことです。牧歌的な生活は退屈と隣り合わせです。緊密な人間関係は厳しい対立に転化する可能性があります。

地方再生を阻む壁として田舎の保守性と都会の革新性の関係を述べて来ました。地方創生を阻むのは田舎の保守性でもなければ、都会の革新性でもありません。両者を対立させ、どちらが正しくてどちらが誤っているという極論こそが地域再生を阻む壁であると私は思っています。