田舎暮らし in 熊野

田舎暮らしの日常、旅行、グルメ、読書について書いています。

幻想の南の島々

 南の島というと皆さん、何を思い浮かべますでしょうか。エメラルドグリーンの美しい海、トロピカルフルーツの甘い香り、寄せては返す潮騒の響き、のんびりした暮らしなど、ある種の甘美な幻想に彩られた異国情緒のようなものではないでしょうか。

f:id:kumanonchu:20180722105221j:image

 本日、岡谷公二氏の『島/南の精神誌』を読了しました。南の島々の信仰や習俗を様々な観点から述べており、読み応えがありました。西欧と日本の南国観の比較や、現代日本における南の島々の信仰の影響の話が印象的でした。

  特に印象に残った後者について、熊野での暮らしを踏まえて書いてみたいと思います。南の島々の信仰について語る時にニライカナイという信仰観を外すことはできません。ニライカナイとは、海の彼方に理想郷があり、善きものは海の彼方からやって来てやがてまた帰ってゆくという信仰です。

 熊野は南方の影響が色濃く残る場所です。ニライカナイと極めて近い信仰観として常世があります。熊野に残る徐福上陸、神武天皇上陸の伝承も常世信仰の現れであると思われます。

 もう一点、聖地についてです。沖縄の聖地は御嶽(うたき)と呼ばれる場所で、社殿のような人工物はなく、単に樹木に覆われた、なにもない場所です。熊野の聖地も花の窟神社や丹倉神社など、社殿を持たず、岩などの自然物を御神体とする聖地が多く残っています。岡本太郎は『忘れられた日本ー沖縄文化論』の中で御嶽の「なんにもない浄らかさに対する共感」を述べています。これは岡本太郎だけでなく、日本人が心のどこかに抱いている心情なのではないでしょうか。

 熊野に住んで、南の島々は異質な世界ではなく、懐かしい故郷のようなものだと感じるようになりました。太古の昔、黒潮に乗って南の島々から渡ってきた、いにしえのくまのびとに想いを馳せつつ、今日も地平線の彼方まで広がる熊野の海を眺めています。